祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「やめておきな、老いぼれ。先のふたりを見ていたなら分かるだろ。お前に私は祓えない。私は祓魔の力を継いだこいつ自身に憑けるくらいだ。……さて、もうひとりの王子さまはどこかな?」

 息も絶え絶えで、臣下に保護されたフィリップを探そうと、フェリックスは視線を逸らした。そのときだ、今まで黙ったままだったローザがまっすぐとフェリックスの元に歩み寄る。これには虚を衝かれた表情でフェリックスもローザを見た。

「どうした、お嬢さん。お前もこのふたりのようにボロ雑巾になりたいのか?」

「私にあなたは祓えません」

 きっぱりと言い放ったローザにフェリックスは高笑いをする。それはフェリックスではない別の誰かのものだ。

「なら、どうした? 恋人に別れでも告げるのか? お嬢さん、こいつのいい人なんだろ?」

 その言葉にオステン方伯が驚いた顔でローザに目線を送った。しかし、ローザはまったく気にしない。まっすぐにフェリックスを見つめて、距離を縮めていく。この行動にはさすがにフェリックスも慌てた。

 警戒心を剥き出しにする表情の前で、ローザは静かに膝を折って、跪(ひざまず)く。

「フェリックス殿下、お会いできて光栄でした」

 そう言って立ち上がると、フェリックスの方に手を伸ばし、肩に手を置く。あまりにも意外な行動を前にフェリックスは動けなかった。

「ありがとう……カイン」

 泣きそうな顔のローザがフェリックスの瞳に映る。そして、次の瞬間、唇が重ねられた。時が止まったような静けさが部屋を包む。そして、フェリックスはローザを突き飛ばし、そのまま倒れ込んだ。
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