祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「この場にいる全員知っているだろう、我が国に伝わる伝承を。我が始祖はどんな者にも慈悲深さを見せた。それをこんなところで覆しはしない」
分かっている、下手に庇えば、余計にローザに不利に働く。フェリックスから目隠しをされているローザの表情は読めない。痛々しい姿に決意が揺らぎ、目の奥が熱くなる。それでも言わなければならないのだ。
『あなたたちはもう二度と会うことができないんです』
自分にもっと力があれば。民からの揺るぎのない信頼があれば。すべては仮定の話で、今の自分にはどれもない。こんな自分にできることは、
「王家に仇を為す魔女め! 私が本気でお前を愛するとでも? その目論見ははずれたな」
頼む、言わせないでくれ! もうひとりの自分が必死に懇願している。けれどフェリックスは最大限の毒を含ませて吐き捨てた。
「もう二度とこの国に足を踏み入れることは許さない。お前に返った呪いに苦しみながら後悔し続けるんだな」
そこでフェリックスは自分の後を追ってきたヨハンに視線を送る。ヨハンは軽く頷いて、ローザに近づくと、立たせてそのまま部屋から引きずり出した。それを瞬きをせずに見つめる。再びざわめきだす群衆にフェリックスはわざとらしく声をあげた。
「王家の力は絶対だ。なにによっても揺らぐことなく、悪魔も呪いにも屈することはない。それは我が国の未来が永遠に約束されたのも同じこと」
恐怖に包まれていた室内に歓声が上がる。誰の目から見ても分かりやすい勧善懲悪。新しい国王の力を皆が認め、沸き立った瞬間だった。
あちこちから、自分を称賛する声と国王陛下と呼ばれるのをどこか遠くのことのようにフェリックスは聞いていた。涙する資格も自分にはない。
ローザの優しい笑顔を思い出してフェリックスは自分で放った言葉を強く噛みしめていた。
分かっている、下手に庇えば、余計にローザに不利に働く。フェリックスから目隠しをされているローザの表情は読めない。痛々しい姿に決意が揺らぎ、目の奥が熱くなる。それでも言わなければならないのだ。
『あなたたちはもう二度と会うことができないんです』
自分にもっと力があれば。民からの揺るぎのない信頼があれば。すべては仮定の話で、今の自分にはどれもない。こんな自分にできることは、
「王家に仇を為す魔女め! 私が本気でお前を愛するとでも? その目論見ははずれたな」
頼む、言わせないでくれ! もうひとりの自分が必死に懇願している。けれどフェリックスは最大限の毒を含ませて吐き捨てた。
「もう二度とこの国に足を踏み入れることは許さない。お前に返った呪いに苦しみながら後悔し続けるんだな」
そこでフェリックスは自分の後を追ってきたヨハンに視線を送る。ヨハンは軽く頷いて、ローザに近づくと、立たせてそのまま部屋から引きずり出した。それを瞬きをせずに見つめる。再びざわめきだす群衆にフェリックスはわざとらしく声をあげた。
「王家の力は絶対だ。なにによっても揺らぐことなく、悪魔も呪いにも屈することはない。それは我が国の未来が永遠に約束されたのも同じこと」
恐怖に包まれていた室内に歓声が上がる。誰の目から見ても分かりやすい勧善懲悪。新しい国王の力を皆が認め、沸き立った瞬間だった。
あちこちから、自分を称賛する声と国王陛下と呼ばれるのをどこか遠くのことのようにフェリックスは聞いていた。涙する資格も自分にはない。
ローザの優しい笑顔を思い出してフェリックスは自分で放った言葉を強く噛みしめていた。