祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
ローザは縄と目隠しを解かれると、城の裏の入口に連れていかれた。限られた者しか知らないその入口には、小さな馬車とローザの従者である若い青年、カミュが険しい顔で待機している。
ヨハンはなにも口を利かない。なにを言っていいのか分からない。けれど、堪らなくなってローザを呼び止めた。
「ズーデン方伯」
「殿下の、いえフェリックス陛下のことを、お願いします。どうかご自分を責めないようにとお伝えください」
なにかを言うのを遮るように、ローザが早口で捲し立て、さっさと背を向ける。その背中をヨハンは再度、呼び止めた。そして持っていたあるものを手渡す。
「どうか、これを。フェリックスさまが、あなたの薔薇だと大事にしていたものです。急いで部屋から持ってきたので崩れてしまいましたが」
ヨハンの手に握られていたのは一輪の薔薇だった。赤に近い鮮やかなピンクが花を咲かせている。ローザは目を見張りつつ、そっと手を差し出して受け取る。
「フェリックスさまは、本当にあなたのことを」
「時間がありません、急ぎましょう」
従者のカミュが急き立てる。ローザは続きを聞くことなく馬車に乗り込んだ。窓も閉められカーテンが外の光を遮断している。お世辞にも快適とは言えない車内は、ゆっくりと振動し動き始めた。
「ごめん、なさい。カミュ。勝手なことをして」
「私が従うのはあなただけですよ。どこまででもお供します」
ローザは俯いて、なにも言えなかった。自分の勝手な判断で、多くの者に迷惑をかけ、たくさんのものを失ってしまった。それでも、どうしてもフェリックスを助けたかったのだ。
ヨハンはなにも口を利かない。なにを言っていいのか分からない。けれど、堪らなくなってローザを呼び止めた。
「ズーデン方伯」
「殿下の、いえフェリックス陛下のことを、お願いします。どうかご自分を責めないようにとお伝えください」
なにかを言うのを遮るように、ローザが早口で捲し立て、さっさと背を向ける。その背中をヨハンは再度、呼び止めた。そして持っていたあるものを手渡す。
「どうか、これを。フェリックスさまが、あなたの薔薇だと大事にしていたものです。急いで部屋から持ってきたので崩れてしまいましたが」
ヨハンの手に握られていたのは一輪の薔薇だった。赤に近い鮮やかなピンクが花を咲かせている。ローザは目を見張りつつ、そっと手を差し出して受け取る。
「フェリックスさまは、本当にあなたのことを」
「時間がありません、急ぎましょう」
従者のカミュが急き立てる。ローザは続きを聞くことなく馬車に乗り込んだ。窓も閉められカーテンが外の光を遮断している。お世辞にも快適とは言えない車内は、ゆっくりと振動し動き始めた。
「ごめん、なさい。カミュ。勝手なことをして」
「私が従うのはあなただけですよ。どこまででもお供します」
ローザは俯いて、なにも言えなかった。自分の勝手な判断で、多くの者に迷惑をかけ、たくさんのものを失ってしまった。それでも、どうしてもフェリックスを助けたかったのだ。