祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「そうなれば、今度はお前が完全に憑りつかれるぞ。まぁ、私にしてみればどちらでもかまわないが。すでにお前たちは近づきすぎた。いつどうなってもおかしくない、落ちるか落ちないか崖っぷちの状態でバランスを保っているのさ」

「そんな……」

 リラは項垂れた。長い銀髪が汚れた剥き出しの床に散るが、今はそんなことも気にしていられない。吐く息は白く、冷たさが伝わってくる。自分はなにもできず、ヴィルヘルムの死を共に待つことしかできないのか。

 共に待つどころか、真実を知った今、もうヴィルヘルムと接触することさえできない。万が一、封じている悪魔が力を取り戻したら、そのときこそヴィルヘルムの、王家の命はない。

 リラにはやっと分かった。触れられるたびに、嬉しいのに拒絶したくなる気持ちは、この身に悪魔を封じている自分の血が危険だと告げていたのだ。自分はやはり伝承通り、王に決して近づいてはならない存在だったのか。

「私がなんとかしてやろうか?」

 突然、降ってきた声にリラは顔を上げる。燃えるような赤い瞳が自分を見下ろしていた。

「人間と悪魔とが交わした契約の仲介に入れるのは、契約した悪魔よりも上位のもの、この場合は、つまり私だけだ」

「なにを、言い出すの?」

「なに、そろそろ私の片腕を返して欲しいだけさ。このまま何代にも渡って封じられているのも困る。こっちも暇なわけじゃない。それに悪魔を封じているからとはいえ、お前の目は厄介なんだ。我々にとっての一番の脅威は正体を見破られることだからな」
< 213 / 239 >

この作品をシェア

pagetop