祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 まさかの提案にリラは目を見開いた。しかし、純粋に喜んでいいものか、信じてもいいのか。相手はなんといっても悪魔であり、その長であるルシフェルだ。

 不信感溢れる眼差しを向けると、その心を読んだかのようにルシフェルは口を開いた。

「もちろん、ただとは言わない。私と新たに契約してもらおう」

 紫の瞳をルシフェルはまじまじと見つめた。そして突く寸前、リラの眼球ギリギリのところをまっすぐに指差す。

「ヨハネス王と我が片腕シェーネムントで交わされた契約を仲介して破棄させる代わりに、お前の目をもらう。そして、今後ヴィルヘルム王にけっして近づかないと誓ってもらおう」

 この紫の瞳を捧げる、すなわちそれはリラの目が見えなくなるということだ。悪魔を封じる前、ローザの目が不自由だったように。

 潰してしまおうとさえ思っていたこの瞳。しかし、いざそれが見えなくなるのかと思うと、勝手ながらリラの心は戸惑った。

「どうだ、怖気づいたか?」

 黙ったままのリラにルシフェルは笑った。

「契約をもちかけてなんだが、無理することはない。お前が王に対して抱いている気持ちも、王がお前に対して抱いている気持も、所詮はまがいものだからな。そこまで尽くしてやる義理もないさ」

「まがい、もの?」

「そう。お前の中のものと王の中のものが、ひとつになりたくて、それが伝わり惹かれ合うように錯覚させられているだけだ。人間たちでいう、そうだな、愛などという甘美なものに似せて」
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