祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 自分は、ヴィルヘルムのことをどう思っているのかなんて突き詰めて考えたことは、この感情をはっきりと名づけたことはない。ただ愛しくて、そばにいたくて、そばにいて欲しくて。

 でも、これは自分の中にいるものが、ヴィルヘルムに残されたものを求めていただけなのか。ヴィルヘルムにとって自分も……。

『どうやら私もその銀の髪と紫の瞳に魅入られたらしい』

 リラはぐっと唾を飲み込む。嘘だと思いたい。こんなにも会いたくて恋い焦がれている気持ちさえも、全部偽物だなんて。信じたくない、けれど、

「リラさま」

 名前を呼ばれ、はっと顔を上げた。静かな地下牢には小さな声も反響して大きく聞こえる。リラは鉄格子のところに飛びついて、声の主を探す。ガシャンという金属音がこだました。

「フィーネ」

 鉄格子の合間から覗くと、頭から布を被り地下牢の入口のところから、こちらを窺っている人物が目に入る。フィーネはリラの居場所と姿を確認すると、頭に被っていた布を払い駆け寄ってきた。

 フィーネはリラの置かれた状況に眉を寄せる。なんだか泣き出しそうな顔だった。

「リラさま、なにもできずに申し訳ありません。水と、少しですが食べ物をもってきました。どうぞ召し上がってください」

 籠からパンをとって手渡そうとするフィーネにリラは慌てる。どう見ても、フィーネが独断でしたことは明らかだった。

「そんな、駄目だよ。そんなことをしたら、フィーネが」

 フィーネは強引に鉄格子の間から腕を伸ばして、リラに差し出す。
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