祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「私のことはいいんです。それよりも早く。見張りの者は、別の者が呼んでいると伝えて、払っておりますが、すぐに戻ってきます」

 必死に腕を伸ばしてくるフィーネにリラは首を振った。フィーネの服は地面を擦り、鉄格子にくっつけている頬が錆で汚れている。

「いい、いいよ。フィーネ。私のことは放っておいて。フィーネまで悪者になっちゃうよ」

「かまいません!」

 弾かれたような声が地下牢に響いた。フィーネは腕を伸ばしたまま、こうべを垂れる。

「ズーデン家の話は聞きました。リラさまがその血を引く者だということも。王家にとってズーデン家がどんな存在なのか分かっています。でも、……でも、リラさまと共に過ごしたこと、王家のためにしてくださったこと、それを考えたら、やっぱりこんなことおかしいです。秘密にしておきたい力なのに、わざわざ祖父の残したものを教えてくださったこと、本当に嬉しかった。私は、リラさまのことが大好きなんです」

 泣き出しそうなフィーネの声に、リラは胸が痛くなる。唇をきつく噛みしめて、リラもぐっと俯いた。

「なにをしている!?」

 そこで空気を裂くような男の声が響いた。見張りをしていた者だ。フィーネの手からパンが落ち、まっすぐに牢まで歩み寄った男がフィーネを後ろから拘束する。

「フィーネ!」

「お前、なにをしているのか分かっているのか!? 魔女の手引きをするなんて、お前も魔女の仲間だったのか!?」

「やめて、彼女は違うの!」

 リラは必死になって叫ぶ。フィーネの顔は苦痛で歪んでいた。リラは鉄格子を掴んで揺するも、金属の擦れる音が不快に鳴るだけだった。
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