祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「リラ」

 再度、名前を呼ばれてもリラはなにも言えない。動けない。そして次の瞬間、ヴィルヘルムが正面からリラを包み込むように強く抱きしめた。

「すまなかった。ずっとお前に、ズーデン家に多くのものを背負わせて」

 その言葉にリラは目を見張る。オステン方伯から真実を聞いたのだとヴィルヘルムは告げた。そして事実をヴィルヘルムたちが知ったことに、胸が軋む。ヴィルヘルムはリラを抱きしめる力を緩めなかった。

「もうそんなことはさせない。リラは、ズーデン家の者はなにも悪くはない」

 ゆっくりと腕の力を緩めると、ヴィルヘルムはリラの頬に手を添えて、自分と視線を交わらせる。慈しむように紫の瞳を眺めた。

「これから、どんな形になるかは分からないが、ずっと償っていく。もういいんだ、私はとっくに自分の運命を受け入れている。だから」

 そこで、リラは思いっきりヴィルヘルムを突き飛ばした。さすがの不意打ち具合にヴィルヘルムも驚く。クルトが中に入ってふたりの間に割って入った。

 リラはしばらく俯いたままだったが、ゆらりと頭を上げて王から視線を逸らした。そして、嘲笑うように声をあげた。

「あはははは、馬鹿みたい。償い? なにも悪くない? なにを言ってるんです? 心配しなくても、私は最初から全部、知ってましたよ」

 まさかルシフェルから真実を聞いたなどとは思わないだろう。ヴィルヘルムの、そしてクルトやエルマーの顔に驚愕の色が浮かぶ。
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