祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「陛下は、千里眼もお持ちでしたか」

 精一杯の冗談をぶつけてみると、ヴィルヘルムも微かに笑った。

「そうだ。見つけるのに随分時間がかかったがな」

 ヴィルヘルムはリラをきつく抱きしめた。ずっと恋い焦がれていた気持ちが溢れだす。ルシフェルは互いに宿っている悪魔が惹かれあっているのだと言った。

 けれど、それだけではないと、今だからはっきりと言える。少なくともリラにとっては。この愛しい気持ちは自分だけのものだった。

「あのー。せっかくの再会をお楽しみのところ申し訳ないんですけど」

 これまた聞き覚えのある声、口調にリラは、ヴィルヘルムの胸に押し当てていた頭を離した。

「さすがに民衆の注目を浴びすぎですよ。パレード停滞していますし。ただでさえ滅多に姿を見せない国王陛下が御前に現れたわけですからね」

 リラの顔が羞恥で朱に染まる。自分は見えていなかったが、さっきからとんでもない数の突き刺さるような視線が自分に向けられていた。

「あ、あの」

 急いで離れようとするリラをヴィルヘルムがそのまま抱き上げた。膝の下と背中に腕を回され、突然の浮遊感にリラは困惑する。

「このまま連れて帰る。文句はないな」

 その言葉はリラに向けられたものでは、なかった。そして、反論する者など誰もいない。当の本人を除いて。

「ちょっと待ってください、陛下。私は」

「お前の文句は、あとでいくらでも聞いてやる。こちらも話したいことがあるしな」

 有無を言わせない威圧感は相変わらずだ。仕事の途中だし、自分の目が見えていないことも話せていない。けれど、今はせっかく掴んだこの手をリラも離したくはなかった。

 結局、ヴィルヘルムの乗ってきた馬に横乗りする形で、リラは自分の置かれた状況をあまり意識しないようにしながら、城まで向かった。
< 227 / 239 >

この作品をシェア

pagetop