祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「リラさま!?」

 久々の城の雰囲気に緊張しつつも、馬から慎重に降ろされる。王の帰りを待っていた家臣たちの中から、いきなり不思議そうに名前を呼ばれた。

 声のした方を探すように首を動かしていると、突然誰かに抱きしめられた。柔らかい、リラと同じ細い腕が回される。

「フィーネ」

「私はずっと信じていました、リラさまのこと。リラさまはけっして王家に仇をなすような存在じゃないって。よかった、よくご無事で……」

 最後は嗚咽混じりで声にならない。リラもつられて涙腺が緩む。思えばフィーネだけはずっと自分のことを信じてくれていた。リラにとってはフィーネの存在も、ずっと心の支えだった。

「リラ・ズーデンさま」

 慣れない名前で呼ばれ、リラは振り向いた。自分にゆっくりと近づいていた気配が、そばまで寄って、急に消える。それは、近づいてきた人物がリラの前で膝を折ったからだ。

「数々の無礼、暴言など、誠に申し訳ございませんでした。どうかお気に召すよう処罰ください」

 声の主はクルトだった。本当に申し訳ないことをしたと思っているのだろう、後悔を滲ませた声色から、本気さが伝わてくる。おかげでリラは逆に申し訳なくなり、慌てだした。

「いえ、その。立ってください。あなたは陛下をお守りしようと当然のことをしたまでで、処罰なんてとんでもないです」

「しかし」

「ならお願いです、どうか畏まらずに普通にしてください。それが処罰です」

 はっきりと言い切るリラにクルトは目を丸くした。すかさずエルマーが茶々をいれる。
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