祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「そんなこと言われたら断れませんよね、クルト先生。なんたって未来の女王陛下ですから」

「えっ」

「エルマー」

  訊き返そうとするリラに、ヴィルヘルムが厳しい声が被せた。

「今日の務めは十分に果たした。私は疲れたからもう休む。かまわないな」

「ええ、お疲れさまでした。本当に、注目されるのが大嫌いなあなたが、わざわざパレードをした甲斐がありましたね」

 含んだ言い方をするエルマーを無視し、ヴィルヘルムはリラの手を取る。

「陛下?」

「お前も一緒に来るんだ」

 どこか怒っているような口調にリラは緊張しつつも手を引かれる形でヴィルヘルムについていくことになった。そして、ある部屋まで連れていかれ、ヴィルヘルムはリラの手を離す。

 なんとなく広い空間なのが伝わってくるが、リラが分かるのはそこまでだ。ここはヴィルヘルムの自室だった。

「どうした?」

 先に部屋の中に足を進めたヴィルヘルムがリラに尋ねる。

「いえ。あの」

 声のする方に進んでいこうとしたが、初めての場所という不安に、リラの足は止まった。思わず俯くと、心臓がドクドクと音を立てて鳴り始める。ヴィルヘルムが近づいてくるのが気配で伝わってきた。

「リラ、お前まさか」

「すみません、陛下。私、目が不自由なんです」

 堪らなくなってリラは自分から真実を告げる。王がどんな顔をしているのかなんて窺うことはできない。けれど、どうしてなのか、など聡いヴィルヘルムが言うことはなかった。

 次の瞬間、リラは痛いくらい強く抱きしめられ、ヴィルヘルムの腕の中にいた。
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