祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「私のせい、なんだな」

 尋ねるというよりも確認の要素が強かった。辛さを孕んだその声にリラは反射的に異を唱える。

「違います! 私、自分の目も髪も嫌いでした。だから、それをなんとかしてもらう代わりに」

「嘘をつかなくていい」

 回された腕の力が強くなり、リラは声を発するどころか、息さえ苦しくなった。けれど密着したことで伝わってくるヴィルヘルムの胸の鼓動に、安心して泣きそうになる。

「頼む、リラ。もう嘘はたくさんだ。これ以上、私のために嘘を重ねないでくれ」

「なん、で、なんで嘘だって言えるんですか」

 懇願するように告げられた言葉に、胸の奥が熱くなる。それでも素直になれなかった。

 本当はあの地下牢でのことが全部、本当のことかもしれない。それまでの自分が全部嘘だったのかもしれない。そう思われてもおかしくないのに、どうしてこうもヴィルヘルムは強く言い切るのか。

「あんまり私のことを見くびるなよ。お前が、誰かのせいにしない女なのは、とっくに分かっている。一緒にいて、その人間の本質も見極められないほど、私は馬鹿じゃない」

 きっぱりとした声が、リラの耳に届き、ついに堪えていた涙が頬を滑った。言い訳しなくては、と必死に頭を回していたのに、本人を前にして、もうこれ以上は誤魔化せない。誤魔化せなかった。

「ごめん、なさい。ごめん……なさい」

 ヴィルヘルムは抱きしめていた腕の力を緩めると、そっとリラの頬の涙の痕を拭った。ヘーゼル色の瞳をじっと見つめ、優しい声色で言い聞かせる。

「謝らなくていい。言っただろ、リラはなにも悪くない。すべては私が」

「陛下は悪くありません!」

 しかし、それを遮るようにリラは叫んだ。
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