祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「そ、そんなつもりではないんです。自分のことばかりで、あなたの立場を考えずにごめんなさい」

 素直に謝ると、フィーネは顔を上げ、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せた。

「分かってくださればいいんです。では、まずはお召し物を替えましょう。髪も梳かせてもらいますね。朝食はそれからにしましょう。リラさま、お嫌いなものはなにかありますか?」

 てきぱきと話を進めていくフィーネにリラは額を押えた。自分の扱われ方が、あまりにも変わりすぎてついていけない。

「あなたは、私のこと怖くないんですか?」

「正直言うと、少しだけ怖いです」

 躊躇いがちに告げられ、リラは目を白黒させる。その顔を見て、フィーネは困ったように笑った。

「ですが、陛下に命じられては逆らうことはできません。残虐非道、悪魔のような国王だと好き勝手言う者もおりますが、民のことはもちろん、我々使用人のこともきちんと考えてくださる方なんです。そんな御方があなたさまのことを大事に扱え、と仰るんです。我々は陛下の仰せのままにするだけです」

 やれやれ、と肩をすくめながら苦笑するフィーネに対し、リラは静かに視線を落とした。

「……慕われているんですね、ヴィルヘルム王は」

 恐怖ではなく信頼で家臣を動かしているのだ。この国が安泰な理由はそういうところもあるのだろう。そして、未だに自分に対する行動も考えもまったく理解できないが、ヴィルヘルム王のことがリラは少しだけ気になった。

 また様子を見に来る、と言っていたが今夜もまた彼は現れるのだろうか。なぜ、こんなことを思うのか。リラは複雑な気持ちに囚われながらもフィーネの指示するままに過ごすことになった。
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