祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「死んだような顔をされるのは、もってのほかだが、妙に謙(へりくだ)られるのも気に食わない。私はそんなつもりで、お前をものにしたわけではない」

 掴まれている手に力が込められ、痛みでリラは顔をしかめた。その表情を見て王はリラを解放する。

「では、なぜ陛下は、私を?」

 恐れながらも疑問を口にすると、王は乱暴にベッドに腰かけ、そしてリラの方に向き直った。

「そうだな、どうやら私もその銀の髪と紫の瞳に魅入られたらしい」

 本気とも冗談とも分からない発言をリラはどう捉えていいのか分からない。王はかまわず続ける。

「だから、その目を潰すなどと馬鹿げた真似はするな。そして妙な気遣いは無用だ。お前はそのままでいればいい。それに、その瞳はきっと“役に立つ”」

 最後の言葉にリラの心臓は加速しはじめる。王は、どういう意味で言ったのだろうか。深い意味などないはずだ。そうに決まっている。自分は余計なことは一切話してはいない。

 心の中に波紋が広がっている中、ヴィルヘルムはベッドからゆっくりと腰を上げた。

「必要なものがあればフィーネに言えばいい。あれはお前と年も近く、物怖じしない性格だからな」

 それだけ端的に告げると、ドアのところへと向かう。リラはその後姿をじっと見つめた。鏡に反射する蝋燭の明りが穏やかで、王の存在を徐々に濃くしては消していく。

「リラ」

 静かな部屋に王の声はよく通った。リラにとって、自分の名前を口にされるだけで、こんなにも心が乱れた経験はない。振り向いた王と、ふたりの視線が絡み合う。

「また明日も来る。今日よりは少し遅くなるかもしれないが、どうせなかなか眠れないんだろう」

 からかうような言葉に、リラは急いで居住まいを正し、平伏する。
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