祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 一番上には、細身でどこか落ち着きなさそうな目がギョロっとした男性。。その左下に描かれているのは、中年でふっくらとしながらも貴族としての気位が高そうな男性。

 そして隣には、随分と年老いている男性が描かれている。細くて鋭い目に、白くて長いあご鬚が目を引く。

「我が国の東西南北の領地をそれぞれ治める方伯たちです。この広大な領地を治められているのは、もちろん王家の力もありますが、彼らの力が必要不可欠なのは言うまでもありません。なにか大きな物事を決める際には、必ず彼らの意向も確認します」

 淡々と説明するフィーネの言葉を受けながら、リラはある疑問が過ぎった。

「あれ、あともう一方(ひとかた)は?」

 四大貴族、そしてこの並びが東西南北をそれぞれ表しているのだとすれば、ここにはもう一枚肖像画があるはずだ。その証拠に二枚の絵の下の壁は日の光を浴びずに変色を免れたのか、薄っすらと同じように絵が掛けてあった跡が残っていた。

「南領地を統括していたズーデン方伯は没落しました。今は東のオステン方伯が兼任しています。あとは北のノルデン方伯、西のヴェステン方伯」

 そう告げるフィーネの声はどこか緊張を帯びている。それを裏づけるかのように、リラさま、と低い声で呼びかけた。

「私も詳しいことを知りません。ですがここで方伯たち、いえズーデン方伯の話は慎んでください。私もそう両親に言い聞かされてきました」

「……はい」
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