祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 ふと目を開けると、部屋の中の薄暗さから日が落ちたことが窺えた。どうやら自分は疲れてあのまま眠ってしまったらしい。顔も体も動かさないまま、リラは先ほどフィーネに告げたことについて考えていた。

 どうして、あんなことを言ってしまったのか。天蓋に施された刺繍をじっと見つめる。言うと決めたのは自分だ。

 その判断を今更後悔したところでどうしようもない。案の定、フィーネはリラの言葉を聞くと、訝しげな表情を浮かべていた。

 その反応は無理もないし、予想していたことだ。けれども、せっかく縮まった距離を、この城での数少ない頼れる人間を失ってしまうかもしれない。

 ため息をついたところで、部屋のドアが開く音がした。

「陛下」

 この部屋に入ってくる人間は限られている。リラは急いで身を起こすとヴィルヘルムは廊下ならば、つかつかと靴音が響きそうな足取りでリラのそばに寄った。その顔はいつもよりも、どこか険しい。

「リラ」

 名前を呼ばれてリラは王を見上げた。

「突然で悪いが、共に来て欲しいところがある」

 まさかの王の言葉にリラは大きく目を見開いた。一体、どこへ? と自分は尋ねてもかまわないんだろうか。もしかすると、また違う誰かのところへ……。

 最悪の事態を想定し、顔が青ざめるリラを見て、ヴィルヘルムは色々と悟ったらしい。言葉足らずだったことを悔やみながらも、腰をかがめてリラに視線を合わせる。

「心配しなくても、お前を手放したりはしない」

 その言葉にリラは心臓が鷲掴みされたようだった。王はすぐに扉の方に向き直り、側近の名を呼ぶ。
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