祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「陛下、いくらなんでも女性の部屋に入るときは、ノックぐらいしましょうよ」

 その顔にリラは見覚えがあった。呆れたようにヴィルヘルムを見つめる青年は右目にモノクルを装着しているが、聡明さよりも人懐っこさの方が滲み出ている。その視線がリラに向けられた。

「こうしてお話するのは初めてですね。僕はエルマー。突然ですみませんが、陛下の言う通り、一緒に来てほしいところがあるんです。まずは服を着替えていただけませんか?」

 エルマーから服が手渡され、リラはずおずと受け取った。なにか言いたげな目で見つめ返すと、エルマーはにこりと人のいい笑みを浮かべる。

「すみません、本当は着るのにフィーネにでも手伝ってもらうべきなんでしょうが、このことは極少数の人間にしか知らせずに進めたいので」

 ますますリラの心に不信感が募る。助けを求めるように、ヴィルヘルムに視線を寄越すと、その口がおもむろに動いた。

「手伝いが必要なら、私がしてやろうか」

「そういうことではありません!」

 反射的にリラは叫んだ。相変わらず王の言っていることが冗談なのか本気なのか理解できない。状況についていけず、突然のことに頭が痛くなってくる。しかし目の前の男たちはさして気にしてはいないようだ。

「手伝うって、陛下は脱がすの専門でしょう」

「着せるためにはまず、脱がさないとならないだろ」

「なるほど-」

 軽快なやりとりを繰り返すヴィルヘルムとエルマーにリラは頭を押さえていた手を軽く握った。
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