祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「分かりました、おとなしく従います。着替えはひとりでできますから!」

 強く言い切ると、男たちふたりは渋々と部屋を後にする。リラはてきぱきと与えられた服に着替えることにした。まだ傷が痛むのでフィーネが手助けしてくれる場合もあるが、もうそこまで重症ではない。

 普段から、傷や治療のことを考慮してか、リラには着脱しやすい服が与えられていた。それは見様によっては質素なものではあるが、高貴な身分でもないリラにとっては重厚なドレスやコルセットよりもずっと落ち着くものだった。

 なんとか服を身にまとい、部屋の外に声をかける。すると、入ってきたのはエルマーのみで、そこにヴィルヘルムの姿がなかったことに、リラは少しだけ落胆した。

 そしてすぐに、そんな気持ちになったことに動揺する。ぎゅっと唇を噛みしめるのと同時に、気持ちも引き締め直し、リラはゆっくりと部屋の外に出た。

 リラに与えられた服は濃灰色の地味なものだった。膝下まで覆う長い生地はゆったりとしたもので、むしろこの城の中では返って目立ちそうな雰囲気だ。

 ただ、よく見ればエルマーも地味な黒に近い服を身に纏っていることにリラは今更ながら気づいた。普段、そんな派手な身なりはしていないと思うが、王の側近にしては地味な気がする。

「どうぞ、こちらへ」

 質問はできないまま、エルマーについていく。昼間歩いた廊下の印象とは異なり、肌寒さを伴って徐々に夜の帳が下りてきたのか、暗い城の中に自分たちは溶けてしまいそうだと思った。

 リラを気遣って、ゆっくりと歩くエルマーではあったが、それでも、まだ体力の十分ではないリラには、壁を伝いながら、ついていくのも精一杯だった。
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