祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「すみません、大丈夫ですか?」
足を止めて、エルマーが問うと、リラは軽く首を縦に振った。
「大、丈夫です」
「あと少しですから。すみません、ちょっと失礼しますね」
数歩先を歩いていたエルマーだったが、おもむろにリラの隣にやってくると、その手を脇下に差し入れ、体を支えるようにして自身に寄せた。重心が隣に寄りかかり、体が密着する。これにはリラも戸惑いを隠せない。
「あ、あの」
顔を赤くして狼狽えるリラに、エルマーは苦笑する。意図せずともその顔は近い。
「余計歩きにくいですか? 他意はないんです。少しでも支えになれば、と思ったんですけど」
リラは勢いよく今度は無言で首を横に振った。変に意識しているのは自分だけで、今まで異性とこんなふうに触れ合ったことがないのが、どうしても丸分かりである。極力、エルマーの顔を見ないようにして足を前に進めることだけに集中した。
「なにをしている?」
しばらくしてから聞き覚えのある声が耳に届き、リラは顔を上げる。他に誰もいない廊下でその声はとてもよく通った。姿が分かるくらいの距離で、不機嫌そうな顔をしたヴィルヘルムとクルトがリラたちの方に視線を送っている。
「お待たせしました? 彼女がひとりで歩くにはまだ、本調子ではなさそうだったんで支えていただけですよ」
そう言いながら、エルマーはそっとリラから体を離した。ヴィルヘルムは眉根を寄せたままの表情でこちらに近づいてくる。王の表情よりも、リラはその服装が気になった。
足丈まであるコートのようなものを身にまとい、その色は黒だ。柄など一切なく縦襟で前にボタンがびっしりと並んでいる。キャソックと呼ばれるものだろうか。そして首には白色のストールがかかっている。その姿はまるで――
足を止めて、エルマーが問うと、リラは軽く首を縦に振った。
「大、丈夫です」
「あと少しですから。すみません、ちょっと失礼しますね」
数歩先を歩いていたエルマーだったが、おもむろにリラの隣にやってくると、その手を脇下に差し入れ、体を支えるようにして自身に寄せた。重心が隣に寄りかかり、体が密着する。これにはリラも戸惑いを隠せない。
「あ、あの」
顔を赤くして狼狽えるリラに、エルマーは苦笑する。意図せずともその顔は近い。
「余計歩きにくいですか? 他意はないんです。少しでも支えになれば、と思ったんですけど」
リラは勢いよく今度は無言で首を横に振った。変に意識しているのは自分だけで、今まで異性とこんなふうに触れ合ったことがないのが、どうしても丸分かりである。極力、エルマーの顔を見ないようにして足を前に進めることだけに集中した。
「なにをしている?」
しばらくしてから聞き覚えのある声が耳に届き、リラは顔を上げる。他に誰もいない廊下でその声はとてもよく通った。姿が分かるくらいの距離で、不機嫌そうな顔をしたヴィルヘルムとクルトがリラたちの方に視線を送っている。
「お待たせしました? 彼女がひとりで歩くにはまだ、本調子ではなさそうだったんで支えていただけですよ」
そう言いながら、エルマーはそっとリラから体を離した。ヴィルヘルムは眉根を寄せたままの表情でこちらに近づいてくる。王の表情よりも、リラはその服装が気になった。
足丈まであるコートのようなものを身にまとい、その色は黒だ。柄など一切なく縦襟で前にボタンがびっしりと並んでいる。キャソックと呼ばれるものだろうか。そして首には白色のストールがかかっている。その姿はまるで――