祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
じっとヴィルヘルを見ていたところで、距離がかなり近いところまで縮められたことに、リラは気がつかなかった。そのことに気づいたとき、王は素早く動くと、リラの膝下に腕を回し、軽々しく持ち上げたのだ。
「えっ」
「こっちの方が早い」
突然の浮遊感に事態が飲み込めないが、反射的に、落ちないようにとリラは王の首に腕を回す。重力に従い、銀の細い髪がはらはらと流れ落ちた。
「陛下、私は大丈夫です。降ろしてください」
「時間がないんだ、言う通りにしろ」
リラの抗議の声はあっけなく一蹴される。そう言われてはリラもおとなしくするしかない。そのままクルトの元に足を運べば、彼は小さな扉の前で待機していた。どう見ても玄関ではなく、普段、ここから人が出入りするようには思えない。
「すみません、気が利かなくて。僕も陛下と同じようにした方がよかったですかね?」
からかい口調でエルマーが尋ねると、ヴィルヘルムはそちらを軽く一瞥しただけでなにも言わない。リラは抱きかかえられたまま「いえ、そんな」と弱々しく否定する。
背中や足に触れられ、こうして密着して感じる王の温もりに、羞恥心に似たなにかが溢れ出しそうで苦しくなる。この触れられ方は言うまでもなく、先ほどのエルマーの比ではなかった。
ようやく降ろしてもらい、リラはヴィルヘルムに礼を言うべきか悩んだ。そっと顔を上げると、ヴルヘルムではなく、側近のクルトの冷たい瞳と目が合う。
なにも口にされなくても分かる、自分を敵として見なしているのが十分に伝わってくる冷たさだった。
「えっ」
「こっちの方が早い」
突然の浮遊感に事態が飲み込めないが、反射的に、落ちないようにとリラは王の首に腕を回す。重力に従い、銀の細い髪がはらはらと流れ落ちた。
「陛下、私は大丈夫です。降ろしてください」
「時間がないんだ、言う通りにしろ」
リラの抗議の声はあっけなく一蹴される。そう言われてはリラもおとなしくするしかない。そのままクルトの元に足を運べば、彼は小さな扉の前で待機していた。どう見ても玄関ではなく、普段、ここから人が出入りするようには思えない。
「すみません、気が利かなくて。僕も陛下と同じようにした方がよかったですかね?」
からかい口調でエルマーが尋ねると、ヴィルヘルムはそちらを軽く一瞥しただけでなにも言わない。リラは抱きかかえられたまま「いえ、そんな」と弱々しく否定する。
背中や足に触れられ、こうして密着して感じる王の温もりに、羞恥心に似たなにかが溢れ出しそうで苦しくなる。この触れられ方は言うまでもなく、先ほどのエルマーの比ではなかった。
ようやく降ろしてもらい、リラはヴィルヘルムに礼を言うべきか悩んだ。そっと顔を上げると、ヴルヘルムではなく、側近のクルトの冷たい瞳と目が合う。
なにも口にされなくても分かる、自分を敵として見なしているのが十分に伝わってくる冷たさだった。