祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「馬車はすぐそこです。急ぎましょう」

 エルマーの指示で扉を開けると、裏庭のようなところに出た。思えば城の外に出るのは初めてだ。しかし感動などはなく、今は暗くて、生い茂っている木々たちはどこか不気味だった。庭を抜けてすぐのところに馬車は待機されていた。

 四人で馬車に乗り、リラはエルマーと隣に座り、ヴィルヘルムたちとは向かい合わせに座る形になった。お世辞にも広いとは言えず、道も悪いからか、振動が響く。国王が乗る馬車にしては狭いし、粗末すぎるのではないか、と疑問が浮かんだ。

 けれど、それよりも今はこの馬車がどこに向かっているのか不安でしょうがない。そのことを尋ねてもいいのか迷っていると、口を開いたのはクルトだった。

「陛下、なぜ彼女を連れて行くのですか?」

 冷たい声と眼差しにリラの肩が縮む。

「何度も説明しただろう」

「しかし、確証もないまま同行させるなんて」

「その確証を得るために、こうして連れて行くんだろ」

 意味が分からないまま、面倒くさそうに答えるヴィルヘルムとクルトに交互に視線をやる。そこに口を挟んだのはエルマーだ。

「間もなく目的地ですよ」

 その声で車内に沈黙と緊張が走る。

「リラ」

 前触れもなく名前を呼ばれ、リラは憂いがかった眼差しでヴィルヘルムを見た。

「なにも心配しなくていい。お前を悪いようにはしない。ただ、今から見ることも聞くことも他言無用だ」

「……分かりました、陛下」

 リラは静かに返す。ちゃんとした答えをもらったわけではない。だが、リラにとってヴィルヘルムの言うことは、どこか信じることができた。
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