祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「リスティッヒは、いつから人身売買を行う国になったんだ?」

 これでもかというくらいの非難の色を声に乗せる。いくら王とはいえ、他国の決まりまで、口を出す権利はない。だが、自分への贈り物として側室を宛がうつもりなら、なんとも乱暴なやり方だ。それを聞いて、男たちは、口角をにんまりと上げた。

「とんでもございません、陛下。これは人間ではないのですから」

 きっぱりと言い切る男に王は眉根を寄せる。そして、もうひとりの男に目で合図を送ると、男は女を強引に座らせ、その目を覆っていた布を解いた。

 瞳は固く閉じられたままで、男が耳元でなにかを囁くと、女は苦悶に満ちた顔になった。どこか痛めつけられたのか、渋々とその瞼を開ける。

 その瞳が姿を現したとき、王は自分の目を疑った。それを顔には出さないようにもするも、彼女の瞳の色は初めて見るものだった。紫――アメジストを彷彿とさせるその瞳は、王の姿を一瞬だけ捉えると、すぐに伏せられた。

「これは悪魔と契約した魔女か、異形の者です」

「だとして、これが私を本当に喜ばすとでも?」

 皮肉混じりに尋ね返すと、男たちは再び、床に這うように頭をつけた。

「陛下が、どんなに美くしく、位の高い女性を後宮に迎え入れても足をお運びにならない、とお聞きしましたゆえ、このようなものを思いつきました。これに遠慮することはありません、陛下のお好きなように慰みものにでもなりましたら、と差し出がましいことを願いまして」
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