祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「祓(はら)えましたか?」

 事の成り行きを見守っていたクルトが静かに口を開く。ヴィルヘルムはおもむろに肩を落とすと、目を凝らして男を見てから、こちらに顔を向けた。

「おそらく。契約はしていなかったようで助かった」

 そして、王の視線がまっすぐにリラを捉える。

「なにか言いたそうな顔をしているな」

 分かってて水を向けると、リラは少しだけ考えを巡らせた。

「陛下は……聖職者だったのですか?」

 その格好、そして今行った行為をリラは知っている。初めて見る光景ではあったが。コンジュラシオン――悪魔祓いと呼ばれるものだ。

「聖職者、とは違うな。私は神を信じていないし、仕える気もない」

「では」

「話は後だ。とりあえず用事は済んだのだから、長居は無用だ」

 その言葉に弾かれたようにそれぞれが動き出す。リラは信じられない、というよりは重い鉛が心の中に沈んでいるような気分だった。そのとき、布で覆われているリラの頭に温もりを感じた。

「心配しなくても、説明はちゃんとする。それに、お前の話も聞かないとならないしな」

 王の言葉にリラの心は渦巻いていく。どうして自分をここに連れてきたのか。その答えをリラも薄々と勘づいていた。そして、それが自分にって好ましくないことだとも。

 行きと同じように帰りも馬車を使用したが、その車内は誰一人として口をきかなかった。自分の真向かいに座っているヴィルヘルムから視線を感じる。

 しかし、それを受けることができずに、リラはひたすら小さな窓の外に視線を送った。辺りは暗くて闇が広がっているばかりだった。
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