祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 説明はちゃんとする、という王の言葉があったが、城に戻ってくるのと同時に、リラはかまわずに自室に足を向けた。

 馬車を降りる前に、頭を覆っていた布をクルトに返そうとしたが、それは冷たく拒否された。そもそも自分は歓迎されていない客なのだ。そのことで傷ついたりはしない。

 部屋着にそそくさと着替えて、ベッドに腰かけ深く息を吐く。肌寒さを感じながら、リラはゆっくりと目を閉じた。自分が見たこと、体験したことをひとつひとつ思い出しながら、少しずつ頭の中を整理して落ち着かせていく。

 そうしていると部屋にノック音が響き、心臓が跳ねた。フィーネか、エルマーか。その予想はどれもはずれた。

「陛下」

 そこにはしかめっ面をしているヴィルヘルムの姿があった。もちろん着替えており、いつも通りのヴィルヘルム王、その姿だ。短い、けれども艶のある黒髪が揺れる。

「そんなに意外そうな顔をすることもないだろ。説明する、と言ったはずだ」

 ゆっくりと近づいてくるヴィルヘルムに対し、リラは急いで立ち上がって釈明する。

「いえ、その、ノックがあったので、てっきり……」

「エルマーに言われたからな」

 数時間前の臣下の冗談とも取れるようなたしなめを王は律儀に聞いたらしい。そのことが意外でもあり、王の人柄を思わせるようでなんだか微笑ましく思った。

 リラは目線を部屋に備えつけのテーブルに向ける。小さな四角いテーブルに対し、年代を感じさせる木製の椅子がふたつ。

 この部屋で話すならそこがいいだろうと思い、一歩踏み出したところで機先を制される。
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