祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「そこでかまわない。同席すると言ってきかないクルトをわざわざ部屋の前で待機させたんだ。楽にしろ」

 どういう意味なのか理解できないまま、そこで立ち尽くしていると、ヴィルヘルムはリラに断わりもなく、天蓋から吊るされている布を手で除け、乱暴にベッドに腰掛ける。

 そのとき、ふっと王の肩の力が抜けたような気がした。そして、まだ立ち尽くしたままでいる自分に顔を向けられ、リラは慌てた。

「あの」

「またエルマーに言われそうだな。とりあえずここに座れ」

 自嘲的に微笑んで指示され、リラに拒否権はなかった。しかし、そんなふうに告げるヴィルヘルムがどこか素のような気もして、一人分ほどの間を空けて隣におずおずと座る。

「なぜ、シュヴァルツ王家が長きに渡って国を治めてきたと思う?」

 沈黙を破ったのはヴィルヘルムの方だった。突然の質問にリラは虚を衝かれる。ヴィルヘルムは前を向いたまま続けた。

「この国の多くの者は神という存在を信じ、祈りを捧げる。絶対的な存在は国を治める者にとっては脅威だ。あくまでも王家といえど人間だからな。神にはなりえない。だが、もしも神にも似た特別な力を持っていたとしたら?」

 そこで王がリラの方にゆっくりと顔を向けたので、仄暗い部屋の中でふたりの視線は交わった。リラはなにも言わずに紫色の瞳に王を映す。そして王の口角がかすかに上がった。

「神を信じ祈るように、その対になる存在をも信じ、祈りを捧げる者がいるのは不思議なことではない。いつからかは知らない。けれどシュヴァルツ王家は代々、それらを祓う力を持っている」

「それが、先ほどの……」

 目線を逸らさないまま口を開くと、王は目で応えた。
< 45 / 239 >

この作品をシェア

pagetop