祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「表立ってはけっして行わない。まさか、今も王家がその力を持っているとは誰も思っていないさ。知っているのは王家とそれに近しい者たち、そして方伯だけだ。王家がその力をもって国を治めている、というのは大半の人間は古くからの言い伝えだと思っている。それに、わざわざ奴らの存在を知らしめても混乱を招くだけだろう」

「なぜ、陛下はその話を私に?」

 ここで、ようやく気になっていた問いかけをリラは口にすることができた。しかし、その答えはもう分かっている。問題はどうやって王がそのことを知ったのかということだ。

「そう怖い顔をするな」

 なだめるかのようにヴィルヘルムは気の抜けたような笑みをリラに見せた。後ろに片手をつき、そちらに体重をかける。その重みでベッドが軋んだ。

「その瞳を見たときから、ずっと気になっていた。ただ色が珍しいからではない。なにか惹かれるものがあった。その正体が明確には分からなかったが。今日、連れて行こうと思ったのはフィーネの報告を聞いて判断した」

 その言葉にリラは顔を歪めて傷ついた表情になる。そしてフィーネに告げた言葉が思い出された。

『お祖父様の使っていた机の一番下の引き出しの中身を奥まで全部見てみて。あなたの探しているものが、きっと見つかると思う』

 突然の前触れもないリラの発言に、フィーネは怪訝な表情を浮かべた。無理もない、ほぼ初対面の、祖父とも会ったことがないような人間の言うことだ。

 言ったことを後悔しながらも、このことは誰にも言わないでほしい、と念押ししたのだが。

「フィーネは言い渋っていた。けれど、祖父の話をお前にしろと言ったのは私だ。その反応を報告しろ、ともな」

 リラは目を大きく見張って王を見た。薄暗い中で王の肌の白さがやけに目につく。

「無事に祖父からの贈り物は見つかったそうだ。とても感謝していたぞ。そして……私も確信を得られたわけだが」

 リラはなにも答えないまま俯いた。結局、自分は王の掌の上で転がされていただけなのだ。今更自分から答える必要もない。きつく唇を噛みしめた。
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