祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 リラには生まれたときからどこか他者と違っていた。この瞳の色、そして金に近い銀の髪。この外見のせいで何度も辛い思いをしてきた。

 今、ここにいるのもこの見た目のせいだ。しかし、さらに厄介だったのは見た目だけではなく、リラの紫の双眼には、この世のものではないものが映るということだった。

 それは死者の魂だったり、人ではないなにかだったり。自分が他者とは違うと気づいたとき、目に見えるものすべてに戸惑い、恐ろしいと感じた。

 目を潰そうとしたのは、この目が見えなくなればいいと願ったのは一度や二度ではない。

 そんなリラを祖母は懸命に慰め、この力のことを教えてくれたのだ。代々、この紫の瞳を受け継いだ者だけに現れる力だと。

 フィーネの話を聞いているときに、そばに優しそうな老人の姿が見えた。なにかをこちらに必死に訴えかけてくる。すぐにフィーネの祖父だと分かった。

 そして、先ほどの件。なかなかコルネリウスのことを直視できなかったが、ヴィルヘルムのやりとりとの最中に見る事ができた、青年の中に潜む黒い影を。

「なんでも見ることができるわけではありません。意志をもってこちらに働きかけてくる存在ではないと」

「十分だ。奴らは常に憑いた人間を取り込み、自己を主張してくる。祓うとき、必要なのは名前だ。私は名前どころか、奴らの姿を見ることもできないからな」

 軽い吐息とともに告げられた言葉。ヴィルヘルムが最初にリラの名前を訊いてきたのは、名前の重要さを知っていたから。そして、今までのヴィルヘルムの態度をリラは納得した。
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