祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「謝ることない。こちらこそ驚かせたな」 

 リラは静かにかぶりを振る。

「いいえ。ですが、陛下が私になにを望まれているのかは、よく分かりました」

「と言うと?」

 一拍置いてからの王の問いかけ。それは意地悪い笑みと共に発せられた。おかげでリラは少しだけ言葉を迷う。

「……この瞳で陛下の力になりましょう。なんなりとご命令ください」

 伏し目がちに告げて、長い睫毛が影を作ると、王は再びリラとの距離を詰めた。

「そういう解釈なら半分、不正解だ」

 そう言ってリラの肩に力を入れると、その身はあっさりと後ろのベッドに倒れた。すかさずそこに王が覆い被さる。なんの抵抗もできないまま、リラは自分の見下ろしているヴィルヘルムを見つめることしかできなかった。

「ここに来たとき、お前は生きる気力を失い、死んでもかまわないという目をしていた。孤独と絶望だけをその瞳に映して。冗談じゃない。生きる気力がないなら与えてやる。私のために生きてみろ」

 不敵な笑みをたたえながら紡がれた言葉にリラの瞳孔が散大する。その瞳を見据えて王は満足そうに微笑んだ。そして先ほどとは違い、今度は優しくリラの頬に触れる。

「お前は私のものになったんだ、拒否権はないはずだろ。精々、飼い猫として甘やかされて、時に役に立ってくれればそれでいい。その方がお前のためにも、他の者たちに対してもいいだろう」

 低い声が耳に心地よく、長い指がゆっくりとリラの頬を滑り、輪郭をなぞる。鼓動が速いのは、嫌悪感からではない。

 こうして触れられるのを受け入れているのは畏怖でも、相手が国王だからでもない。ヴィルヘルムに触れられるのは、嫌ではない。
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