祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 一度ヴィルヘルムの指が離れ、改めて二人の視線が交わった。自然と上目遣いに見つめると、ゆっくりと唇が重ねられる。それをリラは瞳を閉じて受け入れた。

 今まで意識することもなかった唇の温もりや感触に胸が痛くなる。名残惜しく二人の距離が離れ、自然とヴィルヘルムの左手がリラの頭を撫でるように髪に触れた。

 その瞬間、リラの体が震えた。電気が走ったような感覚に跳ね上がりそうになる。さっきまでの蕩けそうな感覚から一変して冷水を浴びせられたような緊張感が全身を襲う。

 そんなリラを気にする素振りもなく、ヴィルヘルムはリラの銀髪に指を通した。触れられる手は優しい。口づけもだ。今までは強引に唇を重ねられるだけだったのに、あんなキスをされるなんて。

 そのことに泣きそうになる。ずっと自分はこうして欲しかった。触れて欲しかった。それなのになぜか、不安の波が心の中に渦巻いていく。やめて! お願い、触らないで!

 相反するふたつの気持ちについていけない。黙ったまま唇を噛みしめていると、言葉を発しないリラを不審に思ったのか、王の手がリラから離れた。

 そして、無意識のうちに、そのことにひどく安堵していることにリラは気づく。どうしてこんな気持ちになるのか分からない。

「嫌だったか?」

「申し訳ありません。けっして、そのようなことは……」

 必死に言葉を紡ぐリラに、王は体を起こして距離をとってやった。

「たしかにお前は私のものだが、嫌なことを無理することはない」

「違うんです、陛下。私は……」

 リラも慌てて身を起こし、否定しようとするが言葉が続かない。そのとき、ノック音が再び部屋に聞こえた。誰か入ってくる気配はないが、その音は叩きつけるように乱暴だ。ドアに視線をやって、王はため息をつく。
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