祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「どうやら時間らしいな」
軽く身なりを整えて、部屋を出て行こうとするヴィルヘルムにリラはどうすればいいのか分からなかった。そんなリラの頭に掌が乗せられる。
「戯れが過ぎたな。ずっと手酷い扱いを受けていたのだから、無理もない。でも、ここではそんなことはないから安心しろ」
そして、「また来る」とだけ短く告げ、王の姿はリラの視界から完全に消えた。耳鳴りがしそうな静寂が再び舞い戻る。
逸(はや)る胸を落ち着かせようとリラは必死だった。何度も息を繰り返し、過呼吸を起こしそうになる。そして軽く頭を振った。
この気持ちの正体はなんなのか。ヴィルヘルムはどういうつもりだったのか。戯れ、と彼は言った。自分のことを飼い猫だとも。だから王が自分に触れることはなんでもないことなのだ。あの口づけさえも。
リラは自分の顔を手で覆って、長くゆっくりと息を吐いた。まだ心臓は煩い。王がどういうつもりなのかということは、考えるだけ無駄だ。そもそも自分だってヴィルヘルムのことをどう思っているのか。
それでも、自分のことを恐れたり、忌み嫌ったりせずに接してもらえるのは純粋に嬉しい。どんな思惑があれ、優しくしてくれることも。さらには、この瞳のことを肯定してもらえるなんて初めてだ。
『私のために生きてみろ』
祖母が亡くなって、ずっと言い知れない孤独感を背負っていたリラの中に少しだけ光が差す。ずっと、とは言わない。
けれど、王に助けられたこの命だ。しばらくは恩返しの意味も込めて、ヴィルヘルムの役に立とう。そして、できればもう少しだけここに、彼のそばにいたい。そう願いながら、リラは自分の唇にそっと触れたのだった。
軽く身なりを整えて、部屋を出て行こうとするヴィルヘルムにリラはどうすればいいのか分からなかった。そんなリラの頭に掌が乗せられる。
「戯れが過ぎたな。ずっと手酷い扱いを受けていたのだから、無理もない。でも、ここではそんなことはないから安心しろ」
そして、「また来る」とだけ短く告げ、王の姿はリラの視界から完全に消えた。耳鳴りがしそうな静寂が再び舞い戻る。
逸(はや)る胸を落ち着かせようとリラは必死だった。何度も息を繰り返し、過呼吸を起こしそうになる。そして軽く頭を振った。
この気持ちの正体はなんなのか。ヴィルヘルムはどういうつもりだったのか。戯れ、と彼は言った。自分のことを飼い猫だとも。だから王が自分に触れることはなんでもないことなのだ。あの口づけさえも。
リラは自分の顔を手で覆って、長くゆっくりと息を吐いた。まだ心臓は煩い。王がどういうつもりなのかということは、考えるだけ無駄だ。そもそも自分だってヴィルヘルムのことをどう思っているのか。
それでも、自分のことを恐れたり、忌み嫌ったりせずに接してもらえるのは純粋に嬉しい。どんな思惑があれ、優しくしてくれることも。さらには、この瞳のことを肯定してもらえるなんて初めてだ。
『私のために生きてみろ』
祖母が亡くなって、ずっと言い知れない孤独感を背負っていたリラの中に少しだけ光が差す。ずっと、とは言わない。
けれど、王に助けられたこの命だ。しばらくは恩返しの意味も込めて、ヴィルヘルムの役に立とう。そして、できればもう少しだけここに、彼のそばにいたい。そう願いながら、リラは自分の唇にそっと触れたのだった。