祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
第二章

歩く死者の噂

『ごめんなさい、リラ。あなたにこの宿命を背負わせてしまうなんて。でも、これはずっと受け継いでいかなければならないの。辛く、恐ろしいものではあるけれど。私もそう言い聞かされてきたわ。だからお願い、どうか約束して――』

 何度も祖母に聞かされた言葉が頭の中に蘇る。それなのに、なぜか、その続きがどうしても思い出せない。どうしてだろうか。あんなに繰り返し嫌になるほど聞いてきたのに。自分はなにを約束させられたのか。

 幼い自分の両肩に祖母の手が乗せられる。その手は普段の温厚な祖母からは考えられないほど力強かった。だから、頷くことしかできない。幼くして両親を亡くしたリラにとって祖母の言うことは絶対だった。

『分かった、言うことをきく。絶対に、約束するから』

 祖母の迫力に押されながら、必死に返事をする自分。なにを? 私はなにを約束したの? その答えが暗い奥底に沈んでいく。そこで場面が切り替わるようにしてリラの意識は覚醒した。

「おはようございます、リラさま。今日は生憎のお天気みたいですが、ご気分はいかがですか?」

 フィーネが、カーテンを開けてリラに声をかける。いつもはフィーネが訪れる前に目が覚めているのが普通なのだが、今日は夢見が悪いせいか、どこか頭が重い。てきぱきと朝支度を進めていくフィーネに視線を向ける。

 あの夜から四日が経過していた。翌朝、いつも通り部屋にやてきたフィーネは、硬い表情で開口一番にリラに謝罪の言葉を述べた。もちろん、誰にも言わないでほしい、と言われたのに王に話してしまったことに対してだ。

 リラの告げた通り、祖父の使っていた机の一番下の引き出しの奥にフィーネ宛の本を発見したらしい。何度も謝罪と御礼の言葉を繰り返すフィーネにリラは苦笑しながら大丈夫だと告げる。

 すると途端にフィーネはなにかを強く決意した顔になった。
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