祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
『私は陛下の命令でリラさまのお世話をしておりますが、これからは私の意志でもあります。なにがあってもリラさまをお守りしますから!』

 守るとは、一体なにからだろうか。そんなことを思いながらも、フィーネは続けて、リラの不思議な力のことについては絶対に他言しないことを熱く誓ってくれた。

 もちろん、ヴィルヘルムからも言われているのだろうが、それでもフィーネの純粋な気持ちは十分にリラに伝わった。おかげで二人の距離は初めてここで会ったときよりも、ぐっと縮むことができたのだった。

 対するヴィルヘルムは、あの夜からリラの部屋のドアを叩く事はなかった。また来るとは言ったが、それがいつだとは言っていない。

 毎日訪れると約束したわけでもない。自分が飼い猫なら、それを可愛がるのは主人の気まぐれだ。ましてや多忙な王のことを考えるなら、尚更こんなことは当たり前だ。

 それなのに、つい寝る前に何度もドアを気にしてしまう自分に呆れてしまう。こんなにもヴィルヘルムが自分の元に足を運ぶことがないことに、言い知れぬ寂しさを抱くなんて。

 これではまるで、会いに来てほしくて恋焦がれているみたいだ。自分から彼になにかを望むことなど決して許されない立場ではあるのに。

「リラさま?」

 その声で意識を現実に取り戻すと、アーモンド色の瞳が心配そうにリラを見つめていた。どこかご気分でも? と尋ねてくるフィーネに慌てて首を振る。

 着替えを手伝ってもらっている途中だった。もうひとりでもできるのにそこはフィーネが納得してくれない。そして話題を変えるためにも、気になっていたことを口にした。
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