祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 その日の晩、ベッドに入ってから、リラはフィーネが語ってくれた歩く死者の情報を反芻していた。立ち入り禁止となっているので、あまり多くの目撃情報は得られなかったが、それでも分かったことがいくつかある。

 そして目撃者は全員女性ということだ。

 フィーネの話していた通り、そのバルコニーに足を踏み入れて、じっとまとわりつくような視線と悪寒を感じて後ろを振り向けば、背が高い金髪の男性が立っているのだという。その表情は読めず、顔は青白くて目にも色がない。

 すぐにこの世の者ではないと悟ることができ、多くの者は叫んだり、その場を後にしたり、さらには気絶したりと、それ以上の接触はないという。害を与えられたという話はないらしい。

 何度目かのため息をついて寝返りをする。そのたびに、リラの長い髪が惜しげもなくベッドの上に広がった。ひとりで寝るには十分すぎるくらい広いベッドは、やはり落ち着かない。

 怪我の具合も大分よくなり、日中、フィーネに案内されながら城内を歩いていると、嫌でも他の城の者たちとすれ違うことがあった。

 その度に、好意的ではない眼差しを向けられたり、リラの外見をもの珍しそうに眺め、こそこそと囁き合われたりもした。

 改めてこの城で自分がどう思われているのかが、突き刺さるように染みる。分かっていたことだ。けれど、その度にフィーネが変わらない笑顔で自分に話しかけてくれたり、気遣ってくれるのが伝わってきて、救われたのだ。

『なにがあってもリラさまをお守りしますから!』

 フィーネの守る、っこういうことだったんだ。

 言われたときには分からなかった言葉に込められたフィーネの決意になんだか泣きそうになる。そのとき、控えめなノック音が部屋に響き、リラは急いで身を起こした。
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