祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「どういうつもりですか、陛下!」

 先ほどよりも厳しいクルトの声が飛ぶ。ただでさえ、目つきが悪く、背も高い悪人面なのに、今はそれをさらに凶悪にさせている。王よりも七つ年上で、幼い頃から王の教育係としてもずっとそばで仕えてきた。いわば腹心中の腹心だ。

「それにしても、困りましたね。まさか陛下の世継ぎ問題が国外にも広まっているなんて」

 エルマーがおどけた調子で言うが、その目は真剣そのものだ。おかげで、激昂したクルトも咳払いをして我を取り戻す。

「まったくです。このようなことが今後、ないとも限りません。彼女の処遇に関しては、後ほど考えるとして、問題はやはり陛下の世継ぎ問題です。せめて後宮に足を運んでいただかなくては。治世も落ち着き、民は世継ぎを望まれています」

 早口で捲し立てられ、ヴィルヘルムは頭を抱えた。見目もよく、政治手腕にも長けているこの王の唯一の問題点は、他を寄せつけない冷たい態度ではない。即位してから三年がたった今も、世継ぎを真剣に考えないことであった。

 結婚が先か、世継ぎを作るのが先か、それはこの国の王家にとっては重要な問題ではない。王政を貫く限り、必要なのはその血を残していくことだ。他国の王室の血縁者でも、自国の貴族の娘でもかまわない。

 臣下たちの必死の訴えも、民衆が望んでいることも分かっている。ヴィルヘルムは、王としての使命も自覚も十分にある。女が欲しくないわけでもない。ただ、どうしてもその気になれないのだ。

 国王としての誇りもあるが、しがみつくつもりもない。それでも、自分に与えられた責務は責任をもってこなすつもりだ。そこに世継ぎの問題がこれほど大きくなるなんて。

 まだなにか言いたそうなクルトが口を開こうとしたのと同時に、「陛下!」と自分を呼ぶ女性のけたたましい声が響いた。おかげでその場にいた三人の視線が一気にそちらに集中する。

 慌てた様子の使用人が息を切らしてこちらに駆けていた。

「どうした?」

「お話中のところ、申し訳ありません。実は先ほどの女性が……」
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