祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「最初は随分と魘(うな)されていたからな」

 独り言のように呟かれた言葉に、この城に連れて来られたときのことをリラは思い出した。鈍い痛みが胸に蘇り、息が苦しくなるのをぐっと堪える。

 もしかして、そのことを心配して様子を見に来てくれていたのだろうか。シーツを握り締めると、波のように皺が寄った。

「それにしてもどうした? 歩く死者に興味があると聞いたが」

 話題を変えるかのように問いかけられ、リラは目を白黒させた。どうやらこれが本題らしい。

 わざわざいつもより早い、こうして自分が起きている時間に尋ねてくれたのは、このことを訊きたかったのだろう。自分の言動はフィーネ伝いに筒抜けなのだ。なのでリラは素直に答える。

「興味、と言いますか。陛下もご存知なんですか?」

「ああ、報告として何度か聞いてはいる。だが、私は歩く死者は専門外だ。あいつらはどうすることもできない」

「そうなんですか」

 純粋に驚きを含んだ声で返す。リラにとっては、違って見えるものの、歩く死者だろうが、悪魔だろうが、生者ではないものをこの紫眼には映してしまうので、少し意外だった。ヴィルヘルムは首元を緩めて、軽く息を吐いた。

「言っただろ、そもそも私はお前のように奴らを見ることはできないんだ。祓魔の力も、できることは文字通り、憑いたものを祓うことだけ。逆に言えば奴らを滅ぼしたり、消したりはできない」

 やれやれと肩を竦めるヴィルヘルムにリラは気になったことを問いかける。
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