祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 彼女を通すように、と告げた客室はなにやら悲鳴にも似た叫び声が響いていた。顔面蒼白または興味半分、と様々な表情を浮かべた家臣たちが部屋の外から中を窺っている。そして、王たちの姿を見た者から順に黙り、道を空けて頭を下げた。

「なんの騒ぎだ?」

 クルトが尋ねると、一人が頭を下げながら早口で捲し立てる。

「はい。陛下に申し付けられたよう、彼女を部屋に案内し、口と手に宛がわれていた布を解きましたら、いきなりご自分の目を潰そうとなさいまして」

 その発言にエルマーが微妙な表情をして、クルトは眉間に皺を刻んだ。中を見ると、娘の両腕を二人がかりで押さえつけ、彼女はその腕を振り払おうと必死にもがいていた。

「おやめください!」

 耳元で叫ばれる声などものともしない。しかし、そこにヴィルヘルムたちが現れたことで、家臣たちの気が逸れた。

 その隙をついて、娘が自分を捕えていた腕を振りほどき、その手を目にやろうとする……瞬間、クルトが素早く剣の鞘を抜き、その柄の部分で娘の急所を捉える。

 痛みで顔をしかめたかと思えば、がくりと項垂れた女をエルマーが支えた。銀髪が重力にしたがって落ちていき、娘の顔を隠す。

「いやあ、クルト先生の剣技はいつ見ても惚れ惚れしますね」

「それは、どうも。しかし陛下、どうなさいますか?」

 剣を鞘に収め、クルトがヴィルヘルムに視線をやる。周りを見渡してから、ヴィルヘルムは表情ひとつ変えずに指示をした。
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