祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「なるほどー。つまり例の歩く死者は、あそこでその女性を待っているわけですか」

 エルマーが手をぽんっと打って納得したような顔をする。あれからリラの部屋に移動し、フィーネの淹れてくれた紅茶を飲んで、体を温める。

 そしてリラは自分の見た記憶をできるだけ正確にエルマーとフィーネに伝えた。夢のような漠然とした映像を忘れてしまわないうちに。

 死者を見て、その声を聞いたりすることは多々あるが、今回は触れたことでか、その記憶までもが伝わってきたようだ。それほどまでに彼の思いの強さ、執着を感じる。

「でも、私が聞いた話では、姿を見たりした者は幾人かいましたが、声をかけてくるなんて初めて聞きましたよ!」

 ポットを持ったまま、興奮したようにフィーネが告げる。それを受けてエルマーが問いかけた。

「相手があなただったから、でしょうか?」

 リラの力のせいなのか、という内容を、リラは躊躇いがちに否定した。

「いえ。恐らく、タイミングよく舞踏会の音楽が流れたことと、私の髪が彼女と同じ金髪に見えたからだと思います」

「つまり、あなたと彼女を間違えた、いや勘違いしたということか」

「彼はずっと約束を守れなかったことを後悔して、あそこでさ迷っているんだと思います。だから、私が彼女になりきって彼と一曲踊れば、きっと未練もなくなると思ったんですが」

 それを聞いて、顎に軽く触れながらエルマーはなにかを考え込む。そこに口を挟んだのはフィーネだ。
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