祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「話は聞いたが、許可できない。フィーネの言い分が正しい」

 翌日、執務室に足を運び、事情をエルマーから聞いていたヴィルヘルムはリラの顔を見るなり、書類から顔を上げることもなく冷たく言い放った。

 部屋の隅では、エルマーがやっぱり、という表情を浮かべ、クルトが相変わらず厳しい表情を浮かべたままだった。

 なにか反論したいが、言葉が続けらず、奥歯を噛みしめる。立場的にも、リラは反対することができない。ヴィルヘルムの目線は相変わらず書類の文字を追っていた。

「少しの対話でどうにかなるならまだしも、必要以上に関わるな。同情すれば付け入る隙を与える。線引きはきっちりしろ、生者以外の者と関わるときの基本だ」

「同情というわけでは」

「なら、他になにがある?」

 そこでようやく顔を上げたヴィルヘルムが真っ直ぐにリラに視線を寄越した。責められているような強い視線にリラの心臓は早鐘を打ち出す。

「お前がその歩く死者のために、そこまでしてやる義理はなんだ? 同調して妙な錯覚を覚えているんだろうが、それはお前の感情ではない」

「分かっています!」

 反射的にリラは叫び、慌てて口をつぐむ。ふぅと一呼吸置いて、調子を整えてから再び口を開いた。

「分かっています、彼のために言ってるんじゃありません。ただ、歩く死者のせいであのバルコニーは使えないままだと聞きました。せっかくの舞踏会もあるのに、彼を恐れて参加しない方もいるとか」

「たいした問題ではない」

「ですが、問題であることは間違いありません。それが陛下にとって少しでも不利なことに繋がるのでしたら、それが私になんとかできるのであれば……。陛下のためにできることがあれば、私はなんでもします」

 消え入りそうな声で言い切り、リラはしょんぼりと頭を垂れた。その発言にエルマーは、にやにやと楽しそうに笑い、クルトの眉間の皺が増える。そして、ヴィルヘルムはと言うと、一瞬だけ目を見張り複雑そうな顔をした。
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