祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「陛下、彼女にやらせてみせましょう」
それまで一言も口を利かなかったクルトが、一歩前に出て口火を切った。
「クルト」
「城の者だけならまだしも、歩く死者の話は舞踏会に参列する者たちの間でも広まっています。噂が憶測を呼び、興味が恐れに繋がれば、それは王家にとってもいい話じゃない」
思わぬ風向きにリラはなにも言えず、事の成り行きを見守った。ヴィルヘルムはしばらく悩んでから、観念したように盛大なため息をついた。
「分かった、許可しよう」
「陛下」
リラの顔がぱっと明るくなり、ヴィルヘルムは制するように続けた。
「ただし、私の言うことは守ってもらう。歩く死者との接触は、一回限りだ。それ以上は許さない、失敗した場合もだ。……エルマー、リラに必要最低限のダンスのステップを教えてやれ。話を聞く限り、向こうもそんなに踊れるわけじゃなさそうだ。簡単でかまわない」
名指しを受けたエルマーは頬をかきながら明るく尋ね返した。
「僕でかまわないんですか? 教えるなら、モーリッツ師や、もっと適任者がいると思いますけど」
「お前がやれ」
念押しするように強く言われ、エルマーはそれ以上、なにも言わなかった。代わりにリラに笑顔を向ける。
「それでは、役得と思ってお引き受けしましょう。教えるのはあまり上手ではありませんが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、お忙しいのに申し訳ありません。精一杯、頑張ります」
と言っても、ダンスなどを踊ったことがないリラにとっては、歩く死者と対峙する以上の不安があった。結局、リラのダンスを覚える都合や、音楽の関係もあり、舞踏会が開催される当日に再度、歩く死者との接触を試みることになった。
それまで一言も口を利かなかったクルトが、一歩前に出て口火を切った。
「クルト」
「城の者だけならまだしも、歩く死者の話は舞踏会に参列する者たちの間でも広まっています。噂が憶測を呼び、興味が恐れに繋がれば、それは王家にとってもいい話じゃない」
思わぬ風向きにリラはなにも言えず、事の成り行きを見守った。ヴィルヘルムはしばらく悩んでから、観念したように盛大なため息をついた。
「分かった、許可しよう」
「陛下」
リラの顔がぱっと明るくなり、ヴィルヘルムは制するように続けた。
「ただし、私の言うことは守ってもらう。歩く死者との接触は、一回限りだ。それ以上は許さない、失敗した場合もだ。……エルマー、リラに必要最低限のダンスのステップを教えてやれ。話を聞く限り、向こうもそんなに踊れるわけじゃなさそうだ。簡単でかまわない」
名指しを受けたエルマーは頬をかきながら明るく尋ね返した。
「僕でかまわないんですか? 教えるなら、モーリッツ師や、もっと適任者がいると思いますけど」
「お前がやれ」
念押しするように強く言われ、エルマーはそれ以上、なにも言わなかった。代わりにリラに笑顔を向ける。
「それでは、役得と思ってお引き受けしましょう。教えるのはあまり上手ではありませんが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、お忙しいのに申し訳ありません。精一杯、頑張ります」
と言っても、ダンスなどを踊ったことがないリラにとっては、歩く死者と対峙する以上の不安があった。結局、リラのダンスを覚える都合や、音楽の関係もあり、舞踏会が開催される当日に再度、歩く死者との接触を試みることになった。