祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「まったく手がかりがなかったわけじゃない。まず仮面舞踏会が行われていたのは、少なくと先々代以上前のことだ。それから、お前が見た奴の記憶の中で、このエメラルドのことが引っかかっていた。アクセサリーとしてだけなら立派過ぎる。恐らくこれは紋章だ」

「紋章?」

「そう。紋章はふたつとして同じものはない。エメラルドは紋章の色では緑を表す。そしてこの爪の部分が百合をかたどっているのは、チャージ(図)を表しているんだろう。そうなれば大方どの家筋かぐらいは絞れる」

 淡々と説明するヴィルヘルムにリラは驚きを隠せない。たったそれだけのことから、彼女の素性や名前まで導き出すなんて。

 頭が切れるのは、国の頂点に立つ者だからか、それがヴィルヘルムだからかは分からないが、リラはただただ感心することしかできない。

「確信を得るために、そこの血筋の娘や屋敷を訪ねたんだ。ギーセン家の四世代前から受け継がれている、ということで少し借りてきた」

「そう、だったんですか」

 そうなると、陛下が後宮やお屋敷を訪ねていると言っていたのは……。

「まったく、無理はするなと言っただろ」

 呆れたようなヴィルヘルムの声にリラは、はたと現状を改めて認識した。そして思いっきり頭を下げる。

「すみません。陛下のために、と言いながら結局は陛下の手を煩わせることになってしまって」

 必死で頼んで、役に立てるのなら、と言ったわりに、こうしてヴィルヘルムに助けられる形で事態は収束を迎えたのだから、なんとも格好がつかない。

 恥ずかしいような、申し訳ないような気持ちでリラは居た堪れなくなった。そのとき、音楽が再び広間から流れてきた。
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