祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「無事に片付きましたか?」

「ああ、リラのおかげでな」

 完全に自分の手柄とも言えないので、クルトから受ける視線にリラはなんだか気まずくなった。しかしクルトはリラのことを気にしていない。

「フィーネが待機しています、行きましょう」

「ほら、行くぞ」

「はい」

 手を出したまま再度促され、リラはおずおずとヴィルヘルムの手を取る。同時に階段を下りていくわけにも行かず、時間をずらして後からリラはここを出ることになった。

 その手引きは入れ替わりで上がってきたエルマーが担当する。リラはゆっくりと手を離し、それが合図のようにヴィルヘルムはリラを見遣った。

「リラ、今日はよくやってくれた。あとはしっかり休め」

「はい、ありがとうございます」

 恭しく頭を下げてリラはヴィルヘルムとクルトの背中を見送る。エルマーは軽く首を傾げて笑った。

「上手くいったみたいでよかったです。それでは、陛下に注目が集まっている間に行きましょうか」

 リラは再度バルコニーの方を振り返った。外からの冷たい風で重厚なカーテンが揺れている。あの向こうに、たった一度しか会ったことのない彼女のために、長い年月をずっとひとりで待っていた彼の姿はもうない。

 報われたことに、安堵するような、羨ましいような。……羨ましい? そう、羨ましいのだ。嫉妬にも似た胸を焦がす羨望。なぜなら、自分もずっと待っている、もう長い間、ずっと――

 そこでリラは我に返った。自分はなにを待っているのか、そんな存在はいないはずだ。長い間、歩く死者と接して、同調してしまったのだろう。一度目を瞑って気持ちを落ち着かせてから、リラはエルマーの後を追った。
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