祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 人の気配が消え、しんと静まり返った真夜中。日中の喧騒が嘘のように、部屋には今の主であるリラしかいない。

 あまりの静けさに、まるで世界中から取り残されたかのような気分だった。だらしなくベッドに体を投げ打ち、瞼を閉じる。今日は色々なことがありすぎて情報が頭の中を錯綜している。

 だから、こんなにも興奮して眠れないのだ。リラはベッドの上でゆっくりと体を起こした。そしてドアの方をじっと見つめる。

 来るわけがない、そう思っているのになにを期待しているのか。唇を噛みしめて視線を逸らしたところで、ドアががちゃりと音を立てた。リラは目を見開いたまま固まる。それは入ってきた人物も同じようだった。

「まだ起きていたのか」

 驚き半分、呆れ半分という表情でヴィルヘルムが入ってきた。リラは急いで居住まいを正す。しかし寝間着を着ている自分は、どうも格好がつかない。慌てて髪を手櫛で整えながらヴィルヘルムを迎える。

 結局、いつものようにこうしてベッドで会うことになるのだが、最早それは定番化していて、今更リラも椅子に移動しようとはしなかった。冷静に考えると、とんでもないことではあるのだが。

 ヴィルヘルムはいつもの調子でベッドの傍に立ち、リラを視界に捉えてから端に腰掛けた。首元のスカーフを緩めて、短く息を吐いてからリラの方を向く。

「今日は突然、悪かったな。あんな調子だが、悪い奴じゃない」

 名前を出さなくてもそれが誰のことを指しているのかは分かる。リラは静かに首を振った。

「いえ、滅相もありません」

「おそらく、またエルマーと調べに行ってもらうことになる。必要があれば私も行く」

「はい」

「次から次へと悪いな」

「いえ。それが私の役目ですから」

 淡々と繰り返される会話が途切れたところで、残るのは沈黙と静寂だけだった。そして思い出したようにヴィルヘルムが口を開いた。
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