高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
なんやかんやで今年で29歳。

そろそろ落ち着きたいお年頃なんだけど、由基は一体どういうつもりなんだろうな。

昼になり、早々と部署の人々がご飯を食べに出かけている。

わたしは自分の席で会社へ行く前に立ち寄ったコンビニで買ったおにぎりを頬張る。

一人でお昼を食べるのは日課だ。

やさしかった先輩は転勤になった土地へと引っ越してしまい、同じ班の先輩とはどうしてもウマが合わず、一人で過ごすことが多かった。

別にどうでもいいんだけれど、その女の先輩はわたしのことを空気のような扱いをするばかりでなく、わたしがトイレの個室に入るのを見込んでは仲間をつれて化粧台を占領するのが日課だった。

ご飯を食べ終え、化粧直しをして、用をすませようとすると、今日もはじまった。

ズカズカとパンプスの音を鳴らしながらわたしが個室にいるのにもかかわらず化粧室へとやってくる。

「仕事ミスばっかりやってて、かたつむり、やるわぁ」

「子会社に飛ばされるってとんでもなくやらしたんでしょ」

「かたつむりならやりかねないね」

「しかも子会社のアレって、結構特殊みたいですぐにやめちゃうっていう地獄の場所っていうじゃない」

「うわあ、自分じゃなくてよかった」

昔っから『かたつむり』のあだ名で呼ばれることが多い。

のんびりしてるところがいいと友人はいうけれど、仕事ではそれが仇となって周りからは『のろまなかたつむり』と陰口を叩かれている。

もう別にいいんだけどね。

のんびりやのかたつむりさんはこの会社を出ていきますよ。

先輩や後輩たちにわたしの担当している仕事の引き継ぎをして、金曜日、送別会もなにもないまま、淡々と普段通りの就業時間とともに会社を引き上げた。
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