高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
月曜の朝を迎え、期待と不安のなか、出勤の準備をした。

着古した黒のスカートスーツに白いシャツといった地味目な服装に、肌色のストッキングを履く。

肩ぐらいまでのびかけた髪の毛を黒いゴムで後ろに束ねる。

化粧は昔から苦手で適当に眉毛を整え、薄づきのファンデーションを塗って、スッピンに近い状態で完了。

誰もわたしの顔なんて興味はないんだから最低限のマナー程度の化粧で十分だろうとタカをくくりつつ、こんな地味な顔でも由基は好きでいてくれるだけマシなんだと小さな自信だけは持っていた。

わたしの住むマンションから本社へは片道バス通勤で30分くらいのところだったのだが、駅直結のオフィスビル群のなかにある一室に子会社は構えているそうで、駅から歩いていける距離になっただけでも気楽でいいな、とドアを開けると、いきなりの雨だった。

せっかく初出勤なのにこれはつらいな、と歩き慣れたローヒールの黒いパンプスを履いて、傘を持ち、雨のなか子会社へと向かう。

駅方面へ向かう通勤客にまぎれるように、わたしもそのなかを歩く。

いつもなら駅からそのままバスターミナルへと向かうのだが、駅の北口から右へと折れるオフィスビル群のある方向へと足を向ける。

周りを見回してもしっかりとした足取りで向かう男性やキビキビと颯爽と歩く女性をみて、有能な社員なんだろうな、と思いながら、わたしも流れるようにオフィスビル群のある場所へと歩く。

多くのオフィスビルがそびえ立つ、通称フロンティアプレイスビルディングス。

なかでも駅の手前に比較的新しく建てられたベンチャー企業誘致のためにつくった、地上10階建てのシェアオフィスビルの上階に今日からお世話になる子会社が入っていた。

駅から直結で濡れずにそのままシェアオフィスビルの一階、エレベーターホールへ向かうロビーに差し掛かったところで、後ろからドンと軽く体を突き飛ばされた。
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