あなたに捧げる不機嫌な口付け
そういえば頭がぶつかるんじゃないかと思ったとき、ピロン、と間抜けな音が鳴った。


「え」


固まる諏訪さん。


本当は、あのへらりとした、ひょうひょうとしている感じの笑顔の方が好きなんだけど、まあいい。

一応笑っていたからよしとする。


目の前で保存して見せつけた笑顔二つに、諏訪さんはいまだに戸惑ったままだ。


仕方がない。


「私も諏訪さんの写真、持ってたいから」

「え?」


ああもう、察しの悪い。


「だから、頼めばちゃんと本心から笑ったし、消せなんて言わないし、怒らなかったのにって言ってるの」


これでいいかと視線を投げると、えええ、と不満顔。


「分かりにくいんだけど……」

「分かってよ。……だから、私、結構諏訪さんのこと好きだってば」


拗ねて流し目をしたら、あーくっそ、と諏訪さんが呟いて。


「悪女だ、悪女が、詐欺師がここにいる……!」


そんな、雰囲気も何もないことを叫んだから、だん、とまた足を思いっきり踏みつけた。


「…………理不尽」

「どっちが」


涙目な諏訪さんが諦めたように、まあ祐里恵だからなあ、とものすごく失礼極まりないことを言うので。


今度、無理矢理お菓子を差し入れてやろうと思う。


ちなみに写真は好きでも嫌いでもない。別に。
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