あなたに捧げる不機嫌な口付け

優しすぎて、息が詰まる。

「桐谷さん、あの」

「はい」


放課後、呼び出されたのは誰もいない空き教室。


お昼休みに私のクラスに来てくれたらしいんだけど私は購買に行っていていなくて、友達伝いに伝言を聞いた。


顔を真っ赤にしてこちらを振り向いたのは、隣のクラスの人だっただろうか。


話したいことがあって、放課後いつでもいいから端の空き教室に来てください、

という話だったから、てっきり何か委員会とか課題とかの呼び出しかと思って、何があったかいろいろ考えていたんだけど。


これは、委員会とか課題とかではなくて、告白じゃないだろうか。


「えっと、あー、……もしよかったら、なんだけど」

「はい」

「俺と付き合ってくれませんか……!」


早口に何とか言い切った目の前の人を見つめる。


えっと、どうしようか。私、名前も知らないんだけど。


名前を聞くのは失礼かな。


でも、沈黙にだんだん気まずさが増している。


「なぜか聞いてもいいですか」


好きな人がいるとかなんとか言ってお断りするのは簡単だけど、何の理由もなく振るのもどうかなあと思って、とりあえず理由を探すために適当に聞いてみる。


ちょっと困っての質問にがばりと頭を上げたその人は、ものすごく言い淀み、小さな声量で言った。
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