あなたに捧げる不機嫌な口付け
切るタイミングを逃してしまったので、繋いだまま諏訪さんの部屋に向かう。


少しごそごそしていた諏訪さんは、パタンと扉が閉まる音の後、確認を寄越した。


「お待たせ。で、来るよね」

「まあ暇だけど、その確信した発言は苛つく」


私と諏訪さんの連絡手段が主に電話なのは、一番場所を選ぶからだ。


周りがうるさかったり誰かいたりしたらあまり出られないし、いざとなれば留守番電話にメッセージを残せばいいし。


まずは電話をかけて、出なかったら会うのはやめる。出たら暇があると考えて誘う。

そういう指標ができている。


えー、と騒ぐ諏訪さんに不遜に笑う。


「弱ってたって私は諏訪さんに落ちないよ」

「……えー」

「とりあえずお菓子ね」


はいはい、といつもの無心を軽く快諾して、あのさあ、と諏訪さんは抗議した。


「ちょっとくらい隙見せようよ、そこはさー」

「なんで。意味不明」


ああ、これだ。


沈んだ心が羽一枚分ほど軽くなる。


こういう馬鹿みたいなやり取りがしたかった。


ふざけるだけの応酬が足取りを弾ませる。


甘酸っぱくもなく、苦くもなく、背伸びもしない、こういう、誰の益にも害にもならないような、ささやかに楽しいやり取りがしたかった。
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