あなたに捧げる不機嫌な口付け
諏訪さんが含み笑いをした。


電波の向こうで猫みたいな笑みをこぼしているに違いない。


「あんまりお堅いとモテないよ、祐里恵」

「大丈夫大丈夫、意外とモテるから。諏訪さんほどじゃないけど」

「何それ皮肉?」


若干拗ねた声色に、へえ、と鼻で笑う。


「皮肉だって思うのは後ろめたいことがあるからでしょ?」

「うわー……祐里恵辛辣……」


ばっさり指摘すると、どーんと影を背負い込んで落ち込む気配がした。


私がこういうやつなのは初対面から分かっているはずなので、気にせず鼻を鳴らす。


「そういうこと言うと上げてやんないよー?」

「うん。じゃあ帰る」


意地悪な笑みを感じさせる諏訪さんに方向転換すると、足音で回ったのが分かったんだろう、え、とか慌てている。


「ちょっと待って、嘘嘘ごめん、帰んないで!」

「……嘘だけど」

「いや今絶対本気だったから! 絶対帰ろうとしてたから!」


白々しくそんなことないと申告したんだけど、やっぱり白々しくて信じてくれなかった。


「今日はマカロンだからね、ほんと帰んないでね!?」

「はいはい」


ぴーぎゃー喚く諏訪さんを、その騒音がどんなに近所迷惑か、となだめているうちに、諏訪さんの部屋に着いた。
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