あなたに捧げる不機嫌な口付け
勝手知ったる玄関にさっさと上がる。


消臭剤が足されていて、毎度見つける律儀さに、少し口元が緩んだ。


「で、聞くよ?」


マカロンを多めに分けてもらい、淹れておいてくれたコーヒーをソファーで受け取ると、いつものごとく流れるように隣を陣取った諏訪さん。


近い。

普通に近い。


冬だからまあいいやって流しているんだけど、夏に近づいたら暑苦しいからやめて欲しい。


「っ」


…………私、今。


何を。


思わずそんなことを考えてしまってからはっとして、戒める。


……違う違う、そんなに長く一緒にいる気はないんだから。


いつ終わってもいいように気を引き締めないと。


しっかり、しよう。


「祐里恵?」


不思議そうな顔に覗き込まれて、誤魔化すように笑みを張りつける。


「告白されたんだけど、そうしたらちょっと諏訪さんに会いたくなって」

「嬉しいこと言ってくれるね」


脈絡が見えない話をとりあえず無難に茶化して、私が怒らないのを確認した諏訪さんは早速切り込んだ。


「嫌いな人だったとか?」

「あまり知らない人。同学年だと思う。多分隣のクラスかな」


手伝ったのは私のクラスがある階だから、よほどのことがない限り他学年はいない。


統合するに、あの人は隣のクラスの人で大丈夫なはずだ。
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