あなたに捧げる不機嫌な口付け
へえ、と興味深げに諏訪さんは目を細めた。


「同じ学校なのは確か?」


頷いた私に首を傾げている。


「予定合わせやすいし、付き合いやすくていい物件だと思うけどな」

「そうなんだけどね」

「もしかして、俺に遠慮してくれちゃった?」


言い淀むと、にやり、不敵に笑った諏訪さんが、妖しさを漂わせて私を覗き込んだ。


「いや、それはない」


即答する。


曖昧にするのは悪手だ。


諏訪さんと私が協力関係なのは認めよう。


でも、私は仮初めの態のいい「彼女」なのであって、本来諏訪さんに遠慮するべきことなど何もない立場だ。


彼氏ができたからもう来ないと言えば、あっさりこの関係は終わる。


終わるようにできている。


今のところ諏訪さんと一緒にいる方が楽しいからここにいるけど、いつかは渡されて以来ずっと使ったことがない鍵を返す日が来るのは当然のことだ。


ちぇっ、と膨れてみせた諏訪さんに、牽制と整理を兼ねて付け足した。


「ただ、別に嫌いじゃないの、私」

「…………へえ?」


ああいう真っすぐな人は眩しいけど、眩しくたって近くにいることはできる。


「あんなうぶな人、初めて見た。それが嫌なんじゃなくて」


顔を真っ赤にして、手足を震わせて、声が掠れて。


素敵で可愛いと思った。

信じたいと思った。


私が好きなんだろうかと、久しぶりに夢を見た。
< 131 / 276 >

この作品をシェア

pagetop